不動産投資で法人化を検討しているけれど、メリット・デメリットや手続きがよく分からず不安…という方に向けて、この記事では不動産投資の法人化による節税効果の仕組みやメリット・デメリットを網羅的に解説します。
この記事を読めば、法人化による節税効果を最大限に活用するための知識が得られ、自分に合った法人化の方法を選択できるようになります。
INDEX
不動産投資における法人化とは?
不動産投資における法人化とは、個人で行っていた不動産投資事業を、株式会社や合同会社などの法人形態で行うことを指します。具体的には、新しく会社を設立し、個人で所有していた不動産をその会社に移転することで、不動産投資事業の主体が個人から法人へと変わります。
これまで個人事業主として行っていた不動産賃貸業を、法人格を持つ会社が経営する形にするということです。これにより、不動産投資事業から得られる収益や経費、税金などの取り扱いが、個人事業主の場合と大きく変わってきます。
法人化には、株式会社、合同会社、一般社団法人など様々な形態がありますが、不動産投資においては一般的に株式会社または合同会社が選ばれます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身に合った法人形態を選択することが重要です。
項目 | 個人事業主 | 法人(株式会社・合同会社) |
---|---|---|
事業主体 | 個人 | 法人 |
課税対象 | 事業所得(個人の所得) | 法人所得(会社の所得) |
税率 | 累進課税(所得に応じて税率が上昇) | 比例課税(一定の税率) |
責任 | 無限責任(私財も責任を負う) | 有限責任(出資額の範囲内での責任) |
法人化することで、税制上の優遇措置を受けられる可能性がある一方で、設立費用やランニングコスト、複雑な会計処理など、新たな負担も発生します。そのため、法人化のメリット・デメリットを十分に理解し、慎重に検討する必要があります。
サラリーマンも利用可能な節税対策について「サラリーマンも利用可能な8つの節税対策|会社員が所得控除を申告する際のポイントも解説」の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。
なぜ不動産投資で法人化が節税対策になるのか
不動産投資において、法人化が節税対策として有効な理由を、法人税と所得税の違い、そして具体的な節税効果の例を交えて解説します。
法人税と所得税の違い
個人が不動産投資を行う場合、利益は所得税の対象となります。所得税は累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど税率が高くなります。
一方、法人が不動産投資を行う場合、利益は法人税の対象となります。法人税は比例課税制度であり、一定の税率が適用されます。この違いが、法人化による節税効果を生み出す大きな要因の一つです。
高所得者ほど、法人化による節税メリットが大きくなります。 個人事業主としての所得が多い場合、所得税の最高税率は45%(住民税含む)に達することもあります。しかし、法人化すれば、法人税率は一定であり、所得税の最高税率よりも低い場合があります。このため、高所得者ほど、法人化による節税効果が期待できます。
税金の種類 | 課税方式 | 税率 |
---|---|---|
所得税 | 累進課税 | 5%~45%(住民税含む) |
法人税 | 比例課税 | 一定税率(資本金1億円以下で年800万円以下の利益の場合、15%等) |
上記はあくまで一例であり、実際の税率は、所得や資本金、事業年度などによって異なります。詳しくは国税庁のウェブサイトをご確認ください。
法人化による具体的な節税効果の例
法人化による節税効果は、様々な形で現れます。以下に具体的な例を挙げて説明します。
給与所得控除
法人を設立し、自身を役員として給与を受け取ることで、給与所得控除を利用できます。給与所得控除とは、給与所得から一定額を控除できる制度です。 これにより、課税対象となる所得が減少し、税負担を軽減できます。
経費計上
法人化することで、個人事業主では認められない経費を計上できる場合があります。 例えば、社会保険料や福利厚生費、交際費などです。これらの経費を計上することで、法人税の課税対象となる利益を圧縮し、節税効果を高めることができます。ただし、経費計上には一定のルールがあるため、注意が必要です。
損益通算
複数の不動産を所有している場合、法人化することで、黒字の不動産と赤字の不動産の損益を通算できます。 これにより、全体の税負担を軽減することが可能です。個人事業主の場合、損益通算には制限があるため、法人化によるメリットは大きいです。
また、他の事業を営んでいる場合も、不動産事業と損益通算を行うことが可能になります。
これらの節税効果は、個々の状況によって異なります。最適な節税対策を行うためには、税理士などの専門家への相談が不可欠です。
不動産投資の法人化のメリット
不動産投資において法人化を選択することには、様々なメリットが存在します。大きく分けて節税効果、事業拡大の基盤構築、社会的信用力の向上といったメリットがあり、それぞれ詳しく見ていきましょう。
節税効果
法人化の最大のメリットとして挙げられるのが節税効果です。個人の所得税率は累進課税であるため、所得が増えるほど税率が高くなります。一方、法人税率は一定であり、所得が増えても税率は変わりません。
そのため、一定以上の所得がある場合、法人化することで税負担を軽減できる可能性があります。また、法人では給与所得控除や経費計上、損益通算といった節税対策も活用できます。
給与所得控除
役員報酬を適切に設定することで、給与所得控除を利用できます。これにより、課税対象となる所得を減らすことが可能です。
経費計上
個人事業主の場合よりも幅広い経費を計上できるため、課税所得を圧縮し、節税効果を高めることができます。例えば、事務所の家賃や光熱費、旅費交通費、交際費などを経費として計上できます。適切な経費計上は節税効果を高める上で重要です。
損益通算
複数の不動産を所有している場合、ある物件で発生した損失を他の物件の利益と相殺できる損益通算が可能です。これにより、全体の税負担を軽減できます。また、青色申告をしている法人は、欠損金を最大10年間繰り越すことも可能です。
不動産投資の法人化のデメリット
不動産投資を法人化することには、メリットだけでなくデメリットも存在します。法人化を検討する際には、メリットとデメリットの両方を理解し、慎重に判断することが重要です。安易な法人化は、かえって負担を増やす可能性があります。しっかりとデメリットを理解した上で、自身にとって最適な選択を行いましょう。
設立費用やランニングコストの発生
法人化には、初期費用として株式会社であれば最低でも24万円程度の設立費用がかかります。合同会社であれば定款認証費用が不要なため、株式会社よりも費用を抑えられますが、それでも登録免許税などの費用が発生します。
また、設立後もランニングコストとして、税理士報酬、社会保険料、法人住民税、事業税などの費用が毎年発生します。これらの費用は、事業規模や売上に関係なく固定費として発生するため、収益が少ないうちは大きな負担となる可能性があります。
初期費用とランニングコストをしっかりと把握し、事業計画に組み込むことが重要です。
複雑な会計処理
個人事業主の場合、青色申告であっても比較的シンプルな会計処理で済みますが、法人の場合は複式簿記による会計処理が義務付けられています。また、法人税、消費税、法人住民税、事業税など、納付すべき税金の種類も増え、計算も複雑になります。
これらの処理を自身で行うのは非常に困難なため、通常は税理士に依頼することになります。税理士報酬もランニングコストとして発生するため、その費用も考慮に入れる必要があります。
融資のハードル
一般的に、法人化すると融資のハードルが上がると言われています。特に設立間もない法人は、実績がないため、金融機関からの信用が低く、融資を受けにくい傾向があります。また、法人の決算書の内容が厳しく審査されるため、健全な財務状況を維持することが融資を受ける上で重要になります。
金融機関によっては、個人事業主よりも法人への融資に積極的な場合もありますが、審査基準は厳しくなる傾向があります。
社会的責任の増大
法人化することで、個人事業主として活動するよりも社会的責任が大きくなります。法人は法律上、独立した人格として認められるため、コンプライアンス遵守や適切な情報開示が求められます。
また、従業員を雇用する場合には、労働基準法などの関連法規を遵守する必要があります。社会的責任を軽視すると、企業イメージの低下や法的責任を問われる可能性があります。
柔軟性の低下
個人事業主の場合、事業の方向転換や撤退などの意思決定を迅速に行うことができますが、法人の場合は株主総会や取締役会の承認が必要となるなど、意思決定プロセスが複雑になり、柔軟性が低下する傾向があります。
迅速な対応が必要な状況においては、意思決定の遅れが機会損失につながる可能性があります。また、法人の解散手続きも複雑で時間を要するため、簡単に事業を撤退することができません。
デメリット | 内容 |
---|---|
費用 | 設立費用、ランニングコスト(税理士報酬、社会保険料、法人住民税、事業税など) |
会計処理 | 複式簿記、税務申告の複雑化 |
融資 | 審査基準の厳格化、信用力の不足 |
社会的責任 | コンプライアンス遵守、情報開示、労働法規の遵守 |
柔軟性 | 意思決定の遅れ、解散手続きの複雑さ |
不動産投資の法人化で節税対策のまとめ
不動産投資における法人化は、節税効果をはじめ事業拡大や信用力向上といったメリットがある一方、設立費用やランニングコスト、複雑な会計処理といったデメリットも存在します。
節税効果は所得税と法人税の税率差、給与所得控除、経費計上、損益通算などを活用することで得られますが、必ずしも節税になるとは限りません。法人化の際には、株式会社、合同会社、一般社団法人など、それぞれの特性を理解し、自身に最適な形態を選択することが重要です。
一定以上の所得があり、複数の不動産を所有している、または所有予定で長期的な投資を考えている方は、法人化のメリットを享受しやすいと言えるでしょう。ただし、設立費用やランニングコスト、複雑な会計処理も発生するため、メリット・デメリットを比較検討し、専門家への相談も踏まえ、慎重に判断することが大切です。
節税以外の目的も考慮し、将来的な法改正にも対応できるよう準備しておく必要があります。